
変わる SAP 認定試験とこれからの学び方
人財育成コラム目次
SAP 認定資格は、SAP 製品やソリューションに関する知識とスキルを、SAP 自身が定める基準で証明するものです。SAP に関わる人にとって、自分の専門性を客観的に示せる数少ない指標であり、学習の到達点としてもわかりやすいものになっています。現在、SAP 認定資格は96個(2026年9月現在)存在しており、業務領域や役割ごとに自分に合った資格を選べるようになっています。
また、これらの資格は難易度によって3段階に分かれています。基礎知識を問う「Associate」、特定領域を深掘りする「Specialist」、そして実務経験を前提とした最上位の「Professional」です。試験コードの頭文字にもこの区分が表れており、慣例として C で始まるものは Associate、E は Specialist、P は Professional とされています。ほとんどの方が最初に挑戦するのは Associate レベルです。担当する業務領域の基礎を身につけていることを証明する資格となります。
ただし、こうしたレベルや区分は、この資格を「肩書き」として見た場合の話です。私は20年以上、SAP の公式トレーニングに携わってきましたが、現場で感じるのは、この資格には肩書きのほかにも、大きく二つの価値があるということです。一つは、資格取得を目指す過程の中で、製品の全体像や業務プロセス、設定や運用の考え方を体系的に学べるという価値。もう一つは、特に初心者にとって、試験範囲そのものが学ぶべき内容の目安となり、「何を、どういう順番で学べばよいか」という道筋が見えるという価値です。
2025年11月以降、SAP 認定試験は、知識を測る形式から実践力を測る形式へと移行し、現在では96個のすべての試験が移行済みとなっています。形式は大きく二つです。

システムベース:
実際の SAP システムを操作しながら、設定や作業を制限時間内に行う形式です。「知っているか」ではなく「使いこなせるか」が問われます。
シナリオベース:
AI アバターとの対話を通じて、実務に近い場面での提案力・説明力・判断力を確認する形式です。受験者は顧客や案件を想定した文脈の中で、SAP ソリューションを提案したり設計の考え方を説明したりしながら、相手の懸念や質問に答え、会話を適切な方向に導くことが求められます。なお、AI との対話形式に代えて、自分の説明を動画で録画し、提出する方式を選ぶこともできます。この場合、SAP の専門家が内容を確認して評価します。
このように SAP 認定試験は、「知識を使いこなせるか」を測る実践的な試験(Practical Exam)へと進化しています。

こうした試験で求められているのは、断片的な知識ではありません。基礎から順を追って理解し、身につけた実践力です。
そのために私が勧める学び方は、まず講師主導型トレーニングを受講することです。講師が要点を整理して説明するので、知識を体系的に身につけられ、疑問もその場で解決できます。特に学習範囲が広い分野では、独学で始めると全体像が見えないまま、断片的な理解にとどまりがちです。実際、研修の現場でも、「SAP Learning や SAP Learning Hub で一人で勉強しようとしたが、結局何から学べばよいか分からなかった」という声をよく聞きます。最初に全体像を正しくつかんでおくと、その後の学習がスムーズに進みます。
そして、講師主導型トレーニングで基礎を固めた後は、SAP のオンライン学習ポータルを使って、自分のペースで深掘りしていきます。研修で学べる時間には限りがあります。オンライン学習ポータルなら、研修で学んだ内容を何度でも復習でき、理解が浅かった部分を自分のペースで補えます。また、研修では扱いきれなかった関連分野へ、学びを広げていくこともできます。
このように、講師主導型トレーニングで土台をつくり、オンライン学習ポータルで定着させて広げていく。この二つを組み合わせることで、実践力は着実に身についていきます。この組み合わせこそ、研修の現場で多くの受講者を見てきた私が、最も効果的だと感じている学び方です。
SAP は、公式のオンライン学習ポータルとして、無料の「SAP Learning」(learning.sap.com)と有料の「SAP Learning Hub」を用意しています。この二つは名前が似ているうえ、ここ数年で関係が大きく変わってきたので、少し整理しておきます。
以前は、SAP Learning Hub が独立した学習ポータルでした。有料の学習コンテンツも、そこで利用するものでした。しかし現在、SAP はその学習コンテンツを SAP Learning へ順次移行しています。SAP Learning Hub には、まだ移行が済んでいない学習コンテンツのみが残っている状態です(とはいえ、現在でもまだ800個程度残っています)。つまり、SAP はオンライン学習ポータルを SAP Learning に一本化しようとしているということです。
SAP Learning には、すでにかなりの量の学習コンテンツがあります。これらは、ラーニングジャーニー(目的ごとに並べた学習コンテンツの順番)に沿って学ぶことができます。ただし、システムベースの試験対策に欠かせない演習用のシステム環境(プラクティスシステム)を利用したり、ライブセッションに参加したりするためには、別途 SAP Learning Hub の契約が必要です。
つまり、今の SAP Learning Hub は、独立した学習ポータルというよりは、SAP Learning の有料機能を使うための「ライセンス」に近い存在になっています。
2024年以降、SAP 認定資格は合格して終わりではなくなりました。なぜなら、資格を維持するためには、年次更新アセスメント(Stay Certified)を毎年受験し続ける必要があるからです。つまり SAP 認定資格は、「過去に学んだ証明」から「今も学び続けている証明」へと変わってきたのです。
そうなると、学び方も資格取得の前と後で分けて考える必要があります。資格取得までは講師主導型トレーニングを軸として学習する。そして、取得後は SAP Learning と SAP Learning Hub を使って、製品のリリースアップで加わった新機能や変更点を学び、最新スキルを維持する。このサイクルこそが、これからの SAP プロフェッショナルにとって不可欠な学び方となります。
SAP 認定資格は、取得することがゴールではありません。実践力を育て、学び続ける姿勢を形にした資格です。資格の取得は、「学びの終わり」ではなく、「次の学びの始まり」です。
※年次更新アセスメント(Stay Certified)を受験するためには、SAP Learning Hub のライセンスが必要です。
※SAP Learning Hub のライセンスには、認定試験を年4回まで受験できる権利も含まれています。